ボーカルを魅力的に!ボーカルのピッチ・リズム修正について
1.はじめに
DTMをやっていて折角ボーカルを録音したのに
「ボーカルがオケと馴染まねえ・・・」
っていうことが結構あると思います。
というか自分も最初はそうでした。今ではだいぶマシになっていますが(と、信じたい)。
こういうときに最初に疑うのはマイクやプリアンプといった機材ですが、別にノイマンのマイクやNEVEのチャンネルスプリットがなくてもプロクオリティの作品に近づけることができます。
そのために重要となって来るのが、「ボーカルエディット」と「ミキシング」という工程です。
今回の記事ではボーカルエディットの中で難易度が高い「ピッチ・リズム修正」に焦点を当ててみたいと思います。
2.ボーカルエディットとは
まず先程も述べましたが、魅力的なボーカルにするためにはボーカルエディットやミキシングといった工程が不可欠です。実際にはボーカルエディット→ミキシングといった順番で作業されることが多く、エディット作業はミキシング作業の前段階的な立ち位置と言えます。
エディット作業は、大きく分けると
①録音テイクの中から良い部分を組み合わせてベストテイクを作り、
②ピッチやタイミングを補正し、
③録音中に入ってしまったノイズの除去をする、
という順番で行われます。これを踏まえることで後のミキシング作業をスムーズに行うことができます。
3.ボーカル補正プラグインとは
ボーカルエディットの中でも一番難易度が高いのが②のピッチやタイミングを補正する工程です。この工程ではピッチ補正用のプラグインを使い作業をしていくのですが、それを使いこなすのにはある程度の経験が必要となってきます。
また、使用するプラグインによっても音質や機能が異なってくるので、自分の目的に合ったプラグインを選びましょう。
ピッチ補正プラグインには無料版と有料版がありますが、無料版では「VocalShifterLE」や、「KeroVee」が有名です。
「VocalShifterLE」は「VocalShifter」という有料ソフトの無料版なのですが、有料版に比べて対応している音質が低くなっています。また無料版はvstとして使えない点も注意が必要です。しかしながらそれ以外は有料版と機能が変わらないため、ピッチ補正のやり方を学びたい方にはおすすめです。
また「KeroVee」はその名の通りケロケロボイスを作ることに特化していることで有名ですが、最近では自然な補正にも力を入れてきているそうです。またvstとして機能し、操作が非常に簡単なため、とりあえずピッチ補正をしてみたい人におすすめです。
有料版ソフトではCelemony社の「Melodyne」シリーズや、Antares社の「Auto-Tune」、Waves社の「Waves Tune」シリーズがおすすめです。
またSteinberg社のDAWである「Cubase」シリーズには「Vari Audio」というピッチ補正ソフトが付属しているのでCubaseを使用している方はこれを使ってみましょう。
また有料版ソフトでも操作性や、補正のかかり具合、ピッチ検出の精度などが異なるため自分に合ったものを選びましょう。
4.まずはベストテイクを作ろう
では実際に作業に移ってみたいと思います。
まずはベストテイクを作っていくためにボーカルを録音することになります。人にもよりますが、経験上、
4~5テイク録っても駄目な場合は何テイク録っても駄目です(笑)
また、日をまたぐと歌い方や歌のテンションが変わってしまうこともあるため、できることなら1日のうちに全て録り終えてしまいましょう。
万が一、日をまたぐ場合は前回に録音した音源を聴きながら歌い方を合わせてつなぎ目が不自然にならないように気を配ります。
全体的にいい感じで録り終えたら、録音したテイクの中から特に良い部分を組み合わせて1つのベストテイクを作ります。これは編集する人にもよりますが、ブレスごとに継ぎ接ぎしていく場合が多いです。こだわる場合は1音1音選んでいくこともありますが、音と音のつなぎ目が不自然になることが多いので慎重に作業を進めていきます。
正直に言いますと、この作業がボーカルに関する作業の中で一番重要になってきます。良いテイクができないと、いくらピッチ補正やミキシングを頑張ったところでどうにもならないことが多いです。そのくらい重要な作業なので気合を入れて望みましょう。
5.実際にピッチ補正ソフトを使ってみよう
次に本題のピッチ補正ソフトを使ってピッチやタイミングを直していきます。今回は筆者が使用しているCelemony社の「Melodyne」を使って説明したいと思います。使用するDAWはAbleton社のLiveです。
まずは大体のピッチ補正ソフトはソフト内部にボーカルを録音したものを編集する形式をとっていますので、ソフト内に編集するボーカル音源を録音します。Melodyneでは左上の「転送する」というボタンを押してからトラックを再生することで録音することができます。このときは別に他のトラックが鳴っていてもソフトの録音には支障がないのでカラオケ音源と一緒に流しながらどこを修正するのかチェックをしていくと後の作業を効率的に進めることができます。
転送し終わったら実際に編集作業に入っていきます。チェックした箇所のピッチやタイミングを直していくのですが、この作業は音楽的な経験やセンスが必要となってきます。
トラック全体のピッチやタイミングを自動で直してくれる機能がMelodyneには搭載されていますが、全てを完璧に直してくれるわけではないため、目指すべきピッチやタイミングを理解していないと修正したものが楽曲に適した物であるかが判断できません。
加えて、完璧に修正されたボーカルが良いものであるといった訳ではなく、若干のピッチやタイミングのズレが個性になってくることも多いので、どの程度まで直すか、ということも判断しなくてはなりません。
これらのことは一朝一夕でどうにかなるものでもないため、日頃から音楽を聴くときにボーカルがどの程度修正されているかを注意しながら聴いてみるといいと思います。
慣れてくると、他の人の音源を聴きながら「あ、ここ修正入ってるな」とかわかるようになります(笑)
では実際に作業してみたいと思います。
ここでは最初にピッチを直していくことにします。慣れたらピッチとタイミングを並行して直すことも可能になりますが、初めての場合はピッチのときはピッチだけに注目して修正をかけていったほうがやりやすいです。
まずは全体のピッチを40%~80%程度で直します。
100%にしないのは完璧に直された音源を聴いてしまうとそれに慣れてボーカルの個性を消してしまう編集をしてしまう可能性が高くなるためです。そしてチェックした、特に気になる箇所のピッチが高いのか低いのかを判断しながら直していきます。
たまに修正したい箇所を直していたらその前後の音まで動いてしまう場合があります。そういうときには「はさみツール」などを用いて前後の音と切り離すことで個別に編集することができるようになります。
はさみツールでつながっていたところを切りました
また、ロングトーン(長く伸ばす音)などで音の真ん中は丁度良いんだけど、出だしがズレている場合などは、ピッチの揺れを修正する機能を使います。
Melodyneでは「ピッチドリフトツール」、「ピッチモジュレーションツール」と呼ばれています。完結にいいますと前者はしゃくりやフォールなどの音のブレを変える機能、後者がビブラートの強さを変える機能です。
Melodyne以外のプラグインにも似た機能が搭載されていますので、これらの機能を使って修正していきます。ここでもやりすぎると人間味を失ってしまうので気をつけましょう。逆にこれらの機能を使い、音の揺れをなくすことでケロケロボイスを作ることもできます。
また先程の「はさみツール」などを使ってロングトーンの一部だけを編集することもできます。
次にタイミングを修正していきます。まずはピッチと同様に全体の40%~70%程度で直します。クオンタイズの設定は音符の最小単位を選びます(歌の一番短い音が16分音符ならそれを選ぶ)。今回の音源は16分音符の三連符(トリプレット)です。
そしてチェックした箇所を直していくのですが、ここで注意点が2つあります。
1つ目が、一つの音のタイミングを編集するとその前後の音にも影響がある場合があるということです。全体の長さを変えずに繋がった2つの音の片方の長さを長くするためにはもう片方を短くするか、休符を増やさなければいけません。やりすぎると歌の印象が変わりすぎたり、不自然になったりしてしまうので注意しましょう。
後ろの音符が走っていたので出だしのタイミングを後ろにずらしたら前の音符が伸びてしまいました。
2つ目はリズムをクリックではなくカラオケ音源に合わせるということです。最近の音楽は打ち込み技術の発展によって機械が演奏していることが多くなってきましたが、実際に打ち込んでいるのは人間なのでクリックに対して多少のズレがあったり、あるいは人間的な心地よい演奏にするために意図的にリズムをズラしてたりしている場合があると思います。
またオケがすべて生演奏の場合にはそれが顕著になっていることもあります。実際に音源にするときにはクリックは鳴っていないので、カラオケ音源に対してタイミングを合わせるようにします。
具体的な編集方法はピッチのときと似ており、気になった箇所を個別で一つ一つ編集していきます。前後が繋がってしまっているときには同様に「はさみツール」を使います。また音量によっても歌のノリが変わることがありますので、場合によっては音量ツール等を使い自然に聴こえるように修正していきます。
これらの編集作業では聴けば聴くほど色々なところが気になって来て、ついつい修正しすぎてしまうことがありますので、分からなくなってきたら参考となる音源を聴いたり、何か他のことをして気分を変えたりすることもオススメです。
6.終わりに
今回はボーカルのピッチ修正をメインに説明させていただきました。ピッチ修正は、最初は難しくて時間がかかると思いますが、慣れてくると短時間でできるようになってきます。きちんとできるとボーカルを何倍にも素敵にさせてくれるのは間違いないでしょう。しかしながら何度も言いますが一歩間違うと歌を台無しにしかねないので慎重に作業をしていきましょう。慣れていない頃は音楽的に信頼できる人に修正した音源を聴いてもらってアドバイスを貰うというのも良いと思います。また、自分で編集することで自分の歌のピッチやタイミングを客観的に聴くことができ、歌の上達にも繋がるのでボーカルの人も是非やってみてください!